EeePC 4G-Xに関するちょっとディープなお話

EeePC 4G-Xというノートパソコンがあります。

これはいわゆるネットブックと呼ばれるジャンルのはしりです。

ネットブックというと、Atom搭載のものがよく知られていて、多くのジャンクマニアの方々が「重い」「遅い」「使えねえ」と悪罵の限りを尽くしている動画を公開しています。

ところがこのEeePCのCPUは、Atomですらないのです。

Celeron-M 353というのが搭載されています。Celeronと言っても長い歴史がありますので、単にCeleronと言っただけではどの世代なのかわからなくなりますが、このM353というのはデスクトップ用で言えばPentium4からCoreに移る時期に出てきたシロモノです。Core2Duoじゃないですよ。ただのCoreです。中の人の家にはCoreSolo搭載のMacminiというのが転がってますが、それよりもちょっと前の世代になります。
流れから言うとCeleron-Mの上位バージョンであるPentiumMをベースにして改良したのがCoreということになります。

で、さっきも言ったようにPentium4からCoreに移り変わる時期の製品なので、Pentium4よりは高性能なんじゃないか、と思う方も多いのではないでしょうか。
ところが全然そんなことはないのでした。
Pentium3に毛が生えた程度の性能しかありません。CeleronMのベースになってるのがPentium3なんで、当然といえば当然なのですけど。

しかもEeePC搭載のCeleron-Mは600MHz前後のひっくいクロック数で動いています。なんでもバッテリでの動作時間を伸ばすためにクロック落とした、ということらしいのですが、製造後十数年を経てバッテリなんぞとっくの昔に死んでますから、そういう配慮はすべて水の泡になっています。

ただ悪いところばかりではなく、このパソコンはストレージがSSDになってます。当時としては画期的です。標準だと容量が4GBしかありませんでしたが、画期的なのです。
メモリは標準搭載で512MBでしたが、ちっちゃいにも関わらずごく普通のメモリスロットに挿すタイプになっているので、2GBまでは増設可能です。

この機体の場合、幸いというかなんというかSSDは社外品16GBに交換してあり、なおかつメモリも1GBに増強されていました。よく考えると確かこれを素材にムック本書いた記憶があり、その時に強化してたような気がします。パーツ代を出版社に払ってもらったかどうかはおぼえてないのですが、多分自腹だったかと。

標準のOSはWindowsXPでしたが、発売当時でも何らかの形で手を入れないと使い物にならないというシロモノでした。当時はメモリを足せばなんとかなったパターンも多かったのですが、それでもやっぱり遅いものは遅かったのです。

でもまあ、標準は標準ということなので、WindowsXPを入れ直してみます。

ネットブックというパソコンには光学ドライブを搭載しているものは皆無で、当然このEeePCにもないのですが、幸いUSBメディアからの起動ができます。ですからWindowsXPインストールCDのイメージをISOファイル化し、それをUSBメモリに書き込んでやればインストール可能です。ジャンク屋でUSB接続の光学ドライブを買って接続してもいいでしょう。

WindowsXPをインストールしただけでは、あちこちの周辺機器が使えませんが、驚いたことにまだメーカーではこの機種用のドライバを公開しています。というわけで拾ってきて組み込みましょう。これで新品時とほぼ同じ環境を構築できる…はずでした。

「はずでした」になっちゃうのは、主にWebブラウザのせいです。

誰もが知っていることですが、WindowsXPは2014年4月にサポートが終了しています。この記事を作っているのは2022年5月ですから、あとほぼ一年で十三回忌になるのです。早いものですね。

とか感慨に浸っている場合じゃありません。とにかくサポートが切れてしまって十年以上経過しているので、それを原因とする不具合があちこちに出てきています。

Webブラウザの場合、特にそれが顕著です。端的に言うと、標準搭載のInternet Explorerでは2020年代のWebページのほとんどが表示不可になってしまうのです。

というわけで、WindowsXPで現役復帰させるためには、ブラウザをなんとかしなきゃいけません。

IEに代わる代替ブラウザとしては、GoogleChromeが真っ先に思い浮かびます。ですがChromeは32ビット版の提供をとうの昔に停止しています。このEeePCには64ビットOSとか入れようと思っても入らないので、Chromeは動かせないわけです。

ところが世の中には中の人以外にも、ポンコツPCをなんとか動かしてやろうという妄執にとりつかれた人が結構いて、そういう人が32ビットXPでも動作するブラウザを作っちゃいました。Serpentという名前のソフトです。というわけで、これをIEの代わりに使うことにしましょう。Serpentはインストーラ不要のexe形式となっているので、ダウンロードしたファイルを解答し、できたフォルダの中にある実行ファイルをダブルクリックすればそれだけで起動します。IEがまともに動かない以上、ダウンロードはEeePCではない母艦PCで行うことになりますが、試しに一度母艦上で起動してみるといいでしょう。

初回起動時に、「今メインで使っているブラウザの設定を引き継ぐか?」という意味のメッセージが英語で表示されますが、ここは華麗にスルーです。引き継がせるとセキュリティ周りがガバガバな環境に、個人情報を持ち込んでしまう結果になる恐れがあります。

なお、起動するとタイトルバーにBasiliskとかいう文字が表示されますが、アプリを間違えたわけではないのでご安心を。なんかテストバージョンと公開バージョンで名前が違ってるみたいですね。ようはハマチとブリの関係みたいなもんです。

チェックが終わったら、解凍したフォルダごとUSBメモリにコピーして、EeePC上に持ち込みます。これでまあ、一通り使えるかもしれない環境が構築されました。

その上で使ってみての感想ですが、「くそ重くて使い物にならない」というごく当たり前の結論に至りました。

ネックはブラウザです。十数年の間にWebページのデータ量はかつてとは比較にならないほど肥大化し、これの転送と描画にCPUパワーが食われまくるのです。

ただブラウザ以外は絶望するほど重く遅くもない、というのも事実でありました。

なのでネットに接続せず、ローカルPCとして使うのならまあありかも知れない、という程度ですね。ですがそうなると「ネットブックってなんだろう」と哲学的に苦悩せざるを得なくなるわけです。

いろいろ試してみて、WindowsXPで使うことは「うん、無理!」ということで、別のものを入れてみよう、ということにしました。

候補となるのは各種Linux、それも軽量だと定評のあるものになるわけですが、実はここでも一つ重大な落とし穴が待ち構えているのです。

それはPAEと呼ばれるものです。

PAEってなんじゃ?という人も多いと思います。これは普通なら2GBで頭打ちになる32ビットPCのメモリ空間を強引に拡張するための仕組みです。CPU的にはなんとPentium2の時代から実装されていたそうです。

Windows系のOSは標準でPAEを無視するようになっているので、普通にPCを使っている人はPAEという名称そのものを知らなくても当たり前、という状況にありました。

ただLinuxワールドにおいてはあるものはなんでも使う、というポリシーがありますので、多くのディストリビューションがPAE対応になっているのですね。

で。

多くのLinuxがPAE使用を前提にしている中、PAEが使えないCPUがもしも存在したら、どうなると思いますか?

とっても怖い話ですね。「でもPentium2から実装してるんだから…」という反論する人もいるかも知れません。

ですが、Pentium-Mの一部はPAE非対応だったりするのです。

Pentium-Mが非対応ということは、そのダウングレード版であるCeleron-Mについても同じことが言えるということです。

そしてとっても恐ろしいことに、EeePC 4G-Xはこの希少なケースに当てはまってしまっているのでした。

中の人は、軽量と呼ばれるLinuxを片っ端からこのEeePCにインストールしようとして、半分ぐらい失敗していました。異様な失敗率の高さになんじゃこりゃと思って調べてみて、はじめてPAEの存在について知ったわけです。

中の人と同じような不幸を体験しないためには、軽量Linuxだからと言ってダボハゼのように食いつくのではなく、入手前にそれがPAE非対応CPUでも動くのかどうかを確認しておくべきでしょう。え? EeePC 4G-Xなんてゴミをわざわざ手に入れようとか思わない?…まあ、当然の反応でしょうね。

軽いLinuxとして有名なPuppy Linux系ですが、現在日本語版が入手可能で一番新しいBionicPup8.0はPAEがないと動いてくれません。

Puppy系と並んで軽いと評判のTiny Core Linuxは動作します。ですがこちらの場合素のままでは動かない周辺機器も多く、かなり不便を味わいます。もちろんLinuxなので、スキルがあれば全部の周辺機器を動作可能にできます。が、そこまでこのPCに労力注ぎ込んで得られるものがあるのか、という問題がもう一方に浮上してきます。

というわけで、素でインストールした時にほぼすべての周辺機器が使え、なおかつ軽くPAEなしでも動くものを探す、ということになりました。結論から言っちゃうとDebian使おう、ってことです。

Debianといってもその種類は膨大なので、まずは絞り込みを行わなければなりません。

PAEすら動かないのですから、64ビットOSは逆立ちしても動きません。ですから32ビット版をチョイスすることになります。

その32ビット版でも、ストレージやメモリ等の資源を考えると、できるだけインストールするソフトを絞りたいですから、ネットインストール版を選ぶことにしました。

実は中の人、ずーっと前からこのネットインストール版のDebianを愛用していたのです。

かつてのネットインストール版は、最小限のシステムとインストーラをフロッピーで起動し、残りは全部ネットワーク経由でダウンロードして組み込む、というスタイルを取ってました。

今のネットインストール版はさすがにフロッピー前提の仕様にはなっていません。ですが、他のバージョンよりISOイメージのサイズが小さく、小回りが効くのです。

まあそれはそれとして、ネットインストール版を使用して、「軽いDebian」を作っていくことにします。このEeePCにはLANポートがあるので、ネットワークインストールも楽々できます。実を言うと最初にDebianをインストールした時にはPAEがどうのということは知らなかったのですが、結果的に動いてしまったのでまあ問題ないかなと。

Linuxの場合、どういうディストリビューションでもカーネル部分はほぼ一緒なので、このレベルでの軽さに差はありません。差が出るのはデスクトップ環境でですね。

ネットインストール版Debianでは、このデスクトップ環境を自由に選べるので、リストに表示されたものの中から一番軽いと思われる「LXDE」を選びます。

LXDEは軽いだけでなく、操作性もなんとなくWindowsに似ているので、最近Linuxに興味を持ち始めたWindowsユーザーにお勧めかも知れません。

というわけでDebian-LXDEをインストールし、起動してみました。

Debian系はSynapticというアプリケーションマネージャが標準でついてきて、そこから簡単にアプリをインストールできます。なおかつDebian対応のアプリというか、Synapticでインストールでこいるアプリが非常に多いので、めんどくさがりさんにお勧めです。ソース落としてきてターミナルから「make install」なんてやらなくていいわけです。あ、もうそんなことやってる人はほとんどいないか。

今回、インストーラで日本語を指定していたため、インストール直後のメニュー等はすべて日本語表示になっています。ですが、日本語の入力はできませんでした。というわけで、ターミナルを起動してsuコマンドでルート権限を得、「gpasswd ユーザー名 sudo」でsudoグループにインストール時に作成したアカウントを追加します。こうしないとsudoなんたらというコマンドが使えないからです。いっぺんログアウトしてから再ログインし、またターミナルを開いて「sudo apt install fcitx-mozc」と打ち込んで、日本語変換システムをインストールしました。先にSynaptic便利とか言ってるのに、なんでコマンドラインからapt使うんだという突っ込みは無視しますのであしからず。

さて、インストール直後からほとんどの周辺機器は使用可能な状態になっています。無線LANは繋がってないように見えますが、システム的に認識はしているので、設定からWLANを選び、表示された一覧から接続したいAPを選んでパスワード入れれば繋がります。この時点で便利だったけどちょっとウザかったLANケーブルとお別れです。ありがとうLANケーブル、君のことはしばらく忘れないよ。

LXDEにはFirefox ESR版とかいうのが付属しています。ESRって軽量バージョンのことかいな、と一瞬思ったのですが、調べてみると企業とか向けの延長サポートバージョンだということで、別に普通のFireFoxと比べて軽くなってるとかそういうのはないみたいです。

で、起動してみたのですがやっぱり重い。ブラウザやシステムがどうこういう以前に、データが重いんだからまあ当然の話ですね。YouTubeのトップページに移動してから全画面が表示されるまで、つまり画面上のサムネイルをクリックできるようになるまで体感で2分ぐらいかかったような気がします。実際に計るつもりないけど。

こんな感じでネットブックのくせにネット接続に関しては壊滅的な状況なんですが、文章作成は比較的軽快にできてしまう。日本語入力システムのMozcはWindows上で使われているGoogle日本語入力の兄弟分なので、変換効率についてはほぼ同等です。Debian+LXDEを標準インストールするとLibreOfficeがついてくるのですが、こちらのWriterを使っても文書作成は普通にできる。軽さを徹底追及するのなら、ターミナルからnanoを起動してそこで日本語文書を作成編集することもできます。一気に時代がDOS+VZエディタの時代に逆行した感じがしないでもないですが、これはこれで慣れると快感かも。

ですがDebianそのものの起動がWindows10よりも遅い以上、こいつを単なるテキスト編集機として使うのもあまり実りある行為とはいえません。テキスト入力だけしたいのならポメラ買えと。もう少しパソコンらしい何かをさせたいわけです。となるとやっぱり動画再生に再挑戦せねば、ということになります。

事態を解決するには、まず現状の完全把握が必要です。現状は「標準ブラウザを使っての動画のストリーミング再生が壊滅的に遅い」です。まずは「ストリーミング再生」の部分を変更してみましょう。

つまりどういうことかというと、ローカルの動画ファイルをメディアプレーヤーで再生するということです。

中の人はメディアプレーヤーというとVLCという頭があったので、まずはSynapticでVLCをインストールし、試してみました。

そしたらHD画質の動画は動きが紙芝居になってほとんど鑑賞に耐えない、という結果になりました。そうかVLCって結構重いのか、と思い直して、Debian+LXDEにデフォルトで組み込まれていたSMPlayerというのを使ってみると、VLCよりはだいぶマシな感じに。360pぐらいの低解像度の動画ならほぼ普通に見られるレベルになりました。

というわけで、低解像度のローカル動画ファイルの再生ならいける、という仮の結論が出ます。

続いて、「標準ブラウザを使わず動画のストリーミング再生を行う」に挑戦してみることにしました。

FireFoxも結構軽い方だと言われていますが、探してみると世の中にはもっと軽いブラウザがあるといいます。midoriというのがよさそうかなと思ったので、これをインストールしてみました。Synapticだと探せばすぐ見つかるので非常に便利です。

先にYouTubeが重くなるのはブラウザではなくデータの方の問題だと書きました。なのでブラウザ変えてもあんまり効果はないだろうな、と思っていたのです。ですが入れてみたら体感できる程度の差が出ました。YouTubeトップページの表示時間が短縮されたのです。

はっきりとした原因はわかりませんが、なんとなくブラウザとしての機能がFireFoxやChromeよりも制限されているので、処理すべきデータ量も減ってんのかね、とか漠然と思いました。

そんなわけで実用性はちょっと上がりました。ただ、動画を再生している状態ではページのスクロールがほとんどできません。EeePCは解像度が低い上に800×480というSVGAですらない変態モードなので、動画ウィンドウが真ん中ぐらい切れてしまい、スクロールさせないと鑑賞できないのです。ですからスクロールが困難というのはかなり重大な問題になります。

Midoriはメニューバーを非常時にする「全画面モード」があるので、これを使うと動画の表示領域を多少広げることができます。ですがこれでも下の方が切れてしまうのです。

この問題をなんとかできれば、実用的な動画再生に向けて半歩前進、といった感じです。なんとかできる方法が思いつかないというのも現実ですが。

最後に、「ブラウザを使わずストリーミング再生をする」ということを試してみました。

ネットで調べると、MiniTubeというのが使えるという記事がいくつか見つかりました。日本語での情報ではなく英語の翻訳ばっかりだったのですが、この時はまだそれが何を意味するのかわかっていませんでした。

で、MiniTubeをインストールします。Synapticで検索しても見つからなかったので、debファイルを公開しているサイトを見つけてダウンロードしました。

で、起動してみたらメニューバーが一瞬表示されるだけで、落ちちゃったんですね。

でもMiniTubeそのものが本当に軽いのか、また使い物になるかを知りたかったので、Windows版を別途インストールして、起動してみました。

これは検索ボックスにキーワードを入力して虫眼鏡アイコンをクリックすると、条件に合致したYouTube内の動画をリスト表示し、再生できるようにするというものです。しかし少なくともWindows版では日本語による検索はできませんでした。また再生の方もお世辞にも軽快とは言えません。

そうかブラウザを使わないストリーミング再生は無理か、と一時あきらめかけたのですが、Debian+LXDE付属のSMPlayerに、SMTubeなる兄弟ソフトがあることを知ります。これはMiniTubeとほぼ同じ役割を果たすアプリのようです。Synapticで探すとすぐ見つかりました。というわけでインストールしてみます。

SMtubeはMiniTubeと違い日本語での検索ができました。実験に「チャー研」というろくでもない単語を使ったため、変な動画がリストアップされましたが、動画のサムネイルをクリックするとちゃんと表示されました。実はなにげに、「チャー研」をキーワードに使ったのはナイスな判断だったのだ、ということがすぐにわかります。

最初に再生した動画は、ニコニコ動画から転載されたコメント満載の低解像度のデータでした。これはところどころひっかかることもありましたが、まあ問題なく再生できたのです。

ところが、リストの2番めにあったナック公式からのHDリマスター版というのは、ひっかかりが多数かつひっかかり時間が長く、まともに鑑賞できませんでした。「チャー研」がナイスキーワードだったというのは、すぐにこういうことを知ることができたためです。

というわけで結論なのですが、SMTubeを使えば、YouTubeの動画再生は可能。ただし低解像度のデータでなければまともには動かない、ということになります。要するにサムネイルに「HD」のアイコンが付くものは避けろ、ということです。プレーヤー側の設定を変更して、「360p中心」にしても改善しないので、今のところはHD動画を避けろとしか言えません。

以上、ここまでやればEeePC 4G-Xをそれなりに使えるようにできるというお話でした。

ここでお話したテクニックは、現在ではほぼ滅びたはずなのに時折倉庫の奥から亡霊のように出てくるPentium4搭載デスクトップにも応用できるでしょう。デスクトップの場合、ビデオカード追加で動画再生速度をいくらか上げることが可能なので、難易度はEeePCよりも微妙に下がるかも知れません。ただ、古い古い機種だとストレージがパラレルIDEで、SSDへの交換が困難である、という別の問題が発生しますが。